
国内 梅毒患者増加 ~近年急増している梅毒・梅毒は過去の病気ではありません~
『梅毒』は梅毒トレポネーマが病原体である細菌感染症で、慢性炎症性疾患です。主として性行為または類似の行為により感染する性感染症です。
我が国の梅毒患者報告数は2010年以降、増加の一途をたどっています。男性においては同性間性的接触による感染経路での増加を続けており、2015年は男女ともに異性間性的接触による感染が急増しています。
梅毒患者のうち、症状で見ると早期顕症梅毒(1期・2期)と無症候梅毒が多数を占めており、無症候患者においては、症状は出ないが梅毒に感染していて、周囲の人に気が付かずに感染させてしまっているケースがあると考えられます。
梅毒については、感染しているとHIVにも感染するリスクが高まることでも知られています。その理由として梅毒の潰瘍性病変が性交渉時のHIV感染リスクを上昇させていることなどが挙げられます。
梅毒は早期発見・早期治療が行われないと、長期間の抗生剤の服用が必要となるため、性行為を持つ全ての人が梅毒に対する正しい知識を持ち、積極的に検査を受けることが増加を抑制するために必要です。
1期から2期の症状は、性器のしこりや潰瘍、皮膚・粘膜の発疹など
梅毒に感染すると約3週間後、第1期梅毒の症状として、感染局所に5㎜~2㎝程度の軟骨くらいの硬さをした"しこり(硬結)"が生じてきます。ほどなくしてしこりは硬く盛り上がり"潰瘍(硬性下疳)"となります。しこりや潰瘍に痛みやかゆみなどの自覚症状はなく、通常は1個だけできることが多く、稀に複数できる場合もあります。
男性では冠状溝・包皮・亀頭部、女性では大小陰唇・子宮頸部に発生することが多く、場合によって口唇などにも発生します。また、しこりや潰瘍ができた後、少し遅れて両側の太ももの付け根のリンパ節が硬く腫れてきます。リンパ節の腫れに痛みはありません。
しかしこれらの症状は2~3週間で消失してしまいます。症状が消失すると第2期梅毒の症状が現れるまで全くの無症状です。そして、感染してからおよそ3か月後に第2期梅毒の症状が現れます。
第2期では体表に発疹がみられ、丘疹性梅毒疹や梅毒性乾癬、梅毒性バラ疹、扁平コンジローマ、梅毒性アンギーナ、梅毒性脱毛など多彩です。第2期の症状もやがて自然に消失して、症状が全く現れない無症候梅毒となります。
感染経路は?主として性行為または類似の行為により感染します
梅毒トレポネーマの感染経路は主として性行為または類似の行為により感染する性感染症です。具体的には膣性行(セックス)、口腔性行(オーラルセックス)、肛門性行(アナルセックス)によって感染します。
また、唇や口腔内に梅毒の病巣があれば、キスだけでも感染する可能性があります。
検査は病院・保健所や郵送検査で行え、血液を採取し感染を調べる
梅毒の検査は血液を採取(採血)して血液中の梅毒に対する抗体の有無を見ることによって判定します。
抗体とは病原体(細菌やウイルスなど)に感染することによって体内で作られるたんぱく質のことで、病原体を身体から排除しようとする働きを持つ物質のことです。
梅毒に感染すると、梅毒に関連した2種類の抗体が体内で作られます。その2種類の抗体は梅毒に今まで一度も感染したことがない人は体内(血液中)には存在せず、梅毒に感染することで2種類の抗体が体内で作られます。
2種類の抗体について少し詳しく説明しますと、一つは脂質抗原に対する抗体(抗カルジオライピン抗体)で、もう一つは梅毒トレポネーマの成分に対する抗体(抗トレポネーマ抗体)です。この2つの抗体にはそれぞれ特徴があり、検査上での大きな違いは、感染してから抗体が産生され始める時期と、梅毒治癒後の抗体の体内残存期間の違いです。
脂質抗原に対する抗体(抗カルジオライピン抗体)は梅毒感染後2~4週間で検査で検出できるのに対して、梅毒トレポネーマの成分に対する抗体(抗トレポネーマ抗体)は感染後4~6週間で検査で検出できるようになります。
また、梅毒治療後は脂質抗原に対する抗体(抗カルジオライピン抗体)は比較的すみやかに体内から消失してゆくのに対し、梅毒トレポネーマの成分に対する抗体(抗トレポネーマ抗体)は一度産生されると長い期間、体内に残り続けます。
以上の特性を踏まえたうえで梅毒血清検査を行い、結果判定を行います。
梅毒はペニシリンの服用で治療ができる
治療にはペニシリンが有効で、経口合成ペニシリン剤(アモキシシリン・アンピシリン)を内服します。
服用期間は第1期梅毒では2~4週間、第2期梅毒では4~8週間、第3期梅毒以降では8~12週間です。
世界における梅毒の標準治療はベンザシンペニシリンG(BPG)の筋肉内注射ですが、日本ではベンザシンペニシリンG(BPG)は認可されていないため使用できない状況にあります。
治療に際しては治療開始後、数時間で梅毒菌体が急速に破壊されるためにアレルギー反応が起こり、39度前後の発熱、全身倦怠感、悪寒、頭痛、筋肉痛などの症状が起こることがあり、第1・2期の患者でそれらの反応が起こりやすくなります。
自然治癒するとも考えらているが、統計はなく基本的には治療が必要
梅毒は未治療でも自然治癒することがあるという報告もあります。無症候梅毒の患者は未治療でも、その 2/3程度は第3期梅毒(晩期梅毒)には移行せず、無症状のままであることが知られており、残りの 1/3程度の患者が第3期梅毒(晩期梅毒)に移行すると言われています。梅毒の感染力は感染した後、時間の経過とともに減弱してゆき、感染後4年以降は性行為による感染はないとされています。
しかし、後期潜伏梅毒の時期では、母から胎児に感染し先天梅毒を発症する可能性はあるため、注意が必要です。