GME医学検査研究所

最近よく耳にする感染症【エムポックス(サル痘)】
どんなことで感染する?どんな予防が必要なの?

エムポックスという感染症をご存じですか?

2023年にはいってから日本でも感染者が増えてきているエムポックス(サル痘)。どうやって感染し、どんな症状が出るのか、まだよく知られていないエムポックスについて解説していきます。

エムポックスとは

エムポックス(サル痘)とは、サル痘ウイルスによる急性発疹性疾患です。
1970年に初めてヒトへの感染が発覚し、中央アフリカから西アフリカにかけて流行しています。
ヒトからヒトへの感染は稀であると思われていましたが、2022年5月以降の世界的流行では、流行地への渡航歴のない人の感染が多く報告されています。これは、ヒトからヒトへの感染が増えたということです。

日本では2022年7月に初めて感染者が報告され、2023年3月時点で99例の患者数報告があります。ですが、2023年5月現在では患者数は減ってきています。

世界的には2022年5月以降、8万6千人以上の感染例が報告されています(3月24日時点)。
WHOによると、現在報告されている患者の大部分は男性ですが、小児や女性の感染も報告されています。
2022年1月1日から2023年2月27日の、サル痘の発生状況は図のとおりです。〔注1〕

WHOは2023年5月11日に「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を解除しました。世界的に感染者数は減少傾向です。

どうしてエムポックス(サル痘)に感染するの?感染の原因は?

【原因ウイルス】

サル痘の原因ウイルスは【ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属サル痘ウイルス】です。大きく2種類に分けられます。
・コンゴ盆地型:死亡率10% 重症化しやすい。
・西アフリカ型:死亡率1%(世界中で流行したウイルス)

【感染経路】

サル痘はアフリカなどに生息するげっ歯類(リスなど)が持っているウイルスで、感染動物との接触によりヒトに感染します。

従来のサル痘では、ヒトからヒトへの感染は希だと思われていましたが、2022年5月以降の世界的流行ではヒトからヒトへの感染により起こりました。
感染経路としては、感染者の皮膚病変または体液、血液との接触(性的接触を含む)や、接近した対面での長時間の感染者の飛沫の暴露、感染者が使用した寝具等の接触などがあります。

  • ◎動物からヒトへ

    感染している動物と接触したり、かまれたり、その肉を調理したり、加熱が不十分なまま食べたりすることで、動物からヒトへ感染する可能性があります。

  • ◎ヒトからヒトへ

    ・感染者の発疹、カサブタ、体液や血液に触れること
    ・性的な接触(口の中、肛門、性器との接触を含む)
    ・近距離での対面で飛沫に長時間さらされること
    ・感染者の使用したシーツやタオル、歯ブラシやカミソリなどに触れること
    などによって、ヒトからヒトへの感染が起こる可能性があります。〔注2〕

今回世界的に流行したヒトからヒトへの感染については、性交渉による感染が大半を占めると言われています。

こんな症状はエムポックスかも…

主な症状

水ぶくれを伴う発疹に加え、多くの場合、発熱、寒気、倦怠感(だるさ)、リンパ節の腫れ、頭痛、筋肉痛などの全身の症状があらわれます。

発疹は、最初は平坦ですが、内部に液体や膿がたまって膨れてくることがあります。膨れた発疹はカサブタができ、最終的にはカサブタの下で新しい皮膚ができた後、カサブタが剥がれ落ちます。
多くの場合2~4週間ほど症状が続いた後自然に回復しますが、稀に重症化することがあります。

どの程度の期間で他の方への感染が起こらなくなるかの詳細は、現時点で調査中です。〔注2〕

サル痘の症状はほかの病気にもみられる症状が多いです。
発疹や発熱等は、水疱瘡(みずぼうそう)・風疹・麻疹(はしか)・梅毒・ヘルペスなどでもみられます。

潜伏期間(感染してから症状があらわれるまでの期間)

通常7~14日(短い場合5日、長い場合21日ほど)

流行地での症状

サル痘の従来の流行地では、発熱などの全身症状後に全身に発疹があらわれる症例が多く報告されていますが、2022年5月以降の流行では、「発熱などの全身症状よりも先に発疹が見られる」「発疹が性器や肛門周辺だけにあらわれる」「発疹以外の症状がない」など、これまでとは異なる症状の報告も見られます。感染経路の違いなどで症状に違いがある可能性が指摘されています。

エムポックスを予防するには?

【検査】

サル痘ウイルスのPCR検査を行います。
検査は地方衛生研究所または国立感染症研究所で実施されます。

【治療】

国内で利用可能な薬事承認された治療薬はないため、対症療法となります。
海外では、サル痘ウイルスに直接効く治療薬としてテコビリマットが承認されており、日本ではこの薬を使って臨床研究が実施されています。

【予防方法】

天然痘のワクチンである痘そうワクチンがサル痘予防にも有効ですが、日本では1976年以降、痘そうワクチンの接種は行われていません。
サル痘ウイルスに感染したかもしれない日から4日以内に痘そうワクチンを接種すると感染予防効果、4-14日で接種した場合は重症化予防効果があるとされています。

現時点の国内では、サル痘の予防目的でのワクチン接種は行っていませんが、サル痘患者との接触者を対象とした臨床研究で接種が行われています。

流行地へ渡航する際は、野生動物(特にネズミやリスなどのげっ歯類)との接触を避けてください。加熱が十分ではない動物の肉を食べることも、避けてください。

【性交渉時の予防】

サル痘の世界的流行の背景には、性交渉が原因のひとつであると言われています。サル痘は性感染症ではありませんが、性交渉では他人と濃厚接触するため、より安全なセックスを心がける必要があります。
以下のようなことに気をつけて感染のリスクを減らしましょう。

  • パートナーが変わった場合は性病検査をする

  • 口やその中、性器(陰茎、睾丸、外陰部、腟)、肛門を含む体のどこかに原因不明の発疹や病変がないか、お互いに確認し合い、ある場合にはセックスは行わず医療機関を受診するようにしましょう。

  • 性行為の相手を限定する

  • コンドームを着用する

同居している方がサル痘と診断された場合

患者の顔や肌に直接触れないようにし、飛沫などを吸い込まないようにしましょう。
患者が使ったタオル・リネンや衣類、食器などは、直接触らないように使い捨て手袋を着用して洗濯・洗浄をし、共用しないようにしましょう。洗濯物を運ぶときはビニール袋などにそっと入れて運び、普段どおりの洗剤で洗濯、その後は再利用できます。処理後は手洗いをしっかりしましょう。

なお、世界保健機関(WHO)では、洗濯には60度以上の温かい水での洗濯が推奨されています。
患者が触れた可能性のある場所(ベッド・トイレ・家具や床など)は換気をし、使い捨て手袋をして掃除した後、消毒薬で拭きましょう。掃除の後には石けんを使ってよく手を洗いましょう。

サル痘について
サル痘は国内では承認された治療薬がないためしっかりと感染対策を行うことが大切です
性交渉での感染が大半を占めるため、注意が必要です