
膣トリコモナス症とは

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膣トリコモナス症は、膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)原虫による感染症で、主に男性は尿道炎や前立腺炎、女性は膣炎を引き起こします。
膣トリコモナス原虫による感染症は、最もポピュラーな性感染症として古くから知られています。
地域によって感染率の差が大きく、近年、日本では減少傾向にありますが、再発を繰り返す難治症例も少なくありません。
膣トリコモナス症は、感染者の年齢層が他の性感染症と異なり非常に幅が広く、中高年者の感染者もしばしば見られます。
感染経路
トリコモナスは、主に性行為によって感染します。女性はトリコモナスに感染している男性との性交渉、あるいは下着やタオル、浴槽を通じて感染しますが、男性は通常、トリコモナスに感染している女性から感染します。
主な感染経路
- 性交渉
- ・下着
・タオル
・便器や浴槽
・検診台
トリコモナスは乾燥には非常に弱いですが、水中では長時間感染性があるため、性交経験のない女性や幼児でも家庭内や公衆浴場などでトリコモナスに感染することがあります。
症状と潜伏期間


- ・尿道から分泌液が出る
- ・排尿時に軽い痛み
- ・尿道にかゆみ、灼熱感、違和感を感じる
などの症状が、感染後10日前後の潜伏期を経て現れる場合もありますが、尿道への感染だけでは排尿によって洗い流される可能性があります。
男性は主に尿道炎症状を起こしますが、一般的に無症状の場合が多いことが特徴です。まれに前立腺炎や精巣上体炎を起こします。


- ・外陰部のかゆみや灼熱感
- ・悪臭の強い黄緑色の泡だったおりもの
- ・外陰部のただれ
- ・性交痛、性交不快感(膣炎が極端な場合)
- ・排尿時痛
(膀胱炎などの尿路感染症を合併している場合)
トリコモナスのおりものの症状は特徴的で、悪臭を伴う黄色膿性あるいは、淡膿性のおりもので泡状であることが特徴です。
男性に比べると、女性のトリコモナス感染者には、さまざまな症状が現れますが、おおむね20~50%は無症候性感染者といわれています。
(潜伏期は10日〜数ヶ月)
検査について
トリコモナスの検出法は、鏡検法、培養法、核酸増幅法などがあります。
検査法 | 検査原理 | 検査の特徴 |
---|---|---|
鏡検法 | 新鮮な尿道分泌物や膣分泌物、または尿を採取し、活発に活動するトリコモナス原虫を顕微鏡で観察する。 | 迅速診断として有用であるが、採取されたトリコモナスが少数の場合、剥離細胞などの陰で見落とすことがある。 |
培養法 | 尿道分泌物や膣分泌物を膣トリコモナス培地を用いて培養を行い判定する。 | 検体として採取されたトリコモナスが少数の場合には、高感度のため有用である。判定までに一定の時間を要する。 |
核酸増幅法 (PCR法) |
トリコモナス原虫の遺伝子を増幅して検出する。 | 感度・特異性が高く、検体中に最低検出感度を上回るトリコモナス原虫が存在すれば検出できる。比較的短時間で結果が出る。 |
当所では、リアルタイムPCR法で検査を行っております。
郵送検査では郵送過程でトリコモナス原虫が死んでしまい、活発に活動するトリコモナス原虫を確認する鏡検法や生きたトリコモナス原虫を増殖させる培養法は適していないため、当所では、トリコモナスの生死に関わらず、残存しているトリコモナス原虫の遺伝子を増幅させて検出する核酸増幅法(PCR法)を、群馬大学医学部と共同研究開発し、検査に取り入れています。
予防
男性の場合、トリコモナスに感染していても自覚症状が無い場合が多く、また検査を行っても検出されることが少ないため、女性パートナーが膣トリコモナス症と診断された場合には、同時期に検査または治療を行う必要があります。
性的感染からの予防 |
性行為の際は、コンドームを正しく使用する。 |
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その他の 感染経路からの予防 |
不衛生な生活用品と性器との接触を避ける。 |
※膣トリコモナスなどの性感染症に感染すると、膣の中の粘膜が炎症を起こし、他の性感染症にかかるリスクが高まります。
治療法
- ● 経口服用(メトロニダゾール)
- ● 膣錠(メトロニダゾール)(難治例や再発の場合には、経口、膣錠による併用療法を行う)
- 服用期間 :
- おおよそ10日間
- 服用の注意 :
- 妊娠中の経口投与には胎児への影響の可能性があるため、原則として、妊婦への経口投与は避け、妊娠初期では腟洗浄と腟剤の挿入のみで治療が行われます。しかし、最近では妊娠14週以降は服用しても安全性が確立されていると考えられています。
- 服用中の注意:
- 服用中及び、服用後3日間に飲酒を行うと、腹部の仙痛・嘔吐・潮紅などが現れることがあるので、飲酒は避けるようにすることが大切です。
- 治癒判定 :
- 症状の消失と、トリコモナス原虫の消失を確認します。
女性の場合、残っているトリコモナスが月経血中で増殖するため、次回月経後にも原虫消失を確認することが望まれます。

膣トリコモナス症の治療は、配偶者、パートナーと一緒に、同時期、同期間の治療が必要になります。
膣トリコモナス症の再発例としては、トリコモナス原虫の残存によるものと、隣接臓器からの自己感染と、パートナーからの再感染などがあるので、医療機関でしっかりと治療を行う必要があります。
膣トリコモナス症に関して多くいただくQ&A
- トリコモナスは、性交渉以外でも感染しますか。
- 性交経験のない、女性や幼児でも感染者が見られることがあり、下着やタオルなどから、または、検診台、便器、浴槽を介して感染することも知られています。
- トリコモナスは市販薬で治療できますか。
- 市販薬での治療はできません。
トリコモナスの治療に用いられる薬剤としては、5-ニトロイミダゾール系のメトロ二ダゾール(フラジール錠)が一般的です。
メトロニダゾールは、処方箋医薬品であり、医師などの処方箋の交付に基づき、医薬品販売業者が販売し、授与できる医薬品でありますので、医療機関で治療を受けることが大切です。 - トリコモナス膣炎と性器カンジダ症、細菌性膣炎のおりものの状態に違いはありますか。
- 個人差や感染の状態にもよりますが、分泌物について一般的には性器カンジダ症は、分泌物がチーズ状、粥状で量は少なめであり、膣トリコモナス症は、淡膿性、泡沫状で量は多く、細菌腺膣症では、分泌物は灰色で量は普通です。
しかし、必ずしも前述したおりものの症状が出るわけではありません。 - トリコモナスは自然治癒しますか。
- 一度感染が成立した、トリコモナスは、抗原虫剤で、治療しない限り治癒することはありません。
治療せずに、放っておくと、女性では卵管炎や骨盤内感染、男性では、前立腺炎や精巣上体炎を引き起こす可能性があります。 - トリコモナスに感染した場合、すぐに発病しますか。
女性では、トリコモナスに感染してから、通常10日前後に症状が出ます。
女性では強い臭いの黄緑色の泡だったおりものが見られたり、陰部に強いかゆみや灼熱感が現れます。
男性は感染しても無症状であることが多い為、気づかないうちにパートナーに感染させてしまい、感染が広がってしまいます。
無症状であっても相手に感染する可能性は十分にありますので、パートナーと一緒に治療しましょう。
